スルガ銀行では何があったのか。第三者委員会のレポートから読み解く不動産投資の闇
地方から上京した若い女性をターゲットとした女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」2018年1月、それに投資したオーナーに約束通りの賃料が払われないことから端を発し、サブリース契約の問題、融資条件偽装問題など次々と問題が明るみに出て社会問題化した「かぼちゃの馬車事件」は皆さんの記憶に新しいことだと思います。
かぼちゃの馬車に投資をしたオーナー約700名のうち、その9割は融資によって1億円前後の物件を購入していますが、その融資を一手に担当していたのがスルガ銀行です。2018年9月7日、同行はこの問題の再発防止と原因究明のため、第三者委員会の調査報告書を公表しました。全338ページに及ぶ詳細な分析がなされた報告書には、なぜこの問題が発生して、大きな社会問題化したのかの原因を読み取ることができます。
目次
Toggle「かぼちゃの馬車」の投資にはなぜ魅力があったのか?
まず報告書の問題を分析する前に、多くのオーナーが騙された「かぼちゃの馬車」の投資のどこに魅力があったのか?
もう一度、振り返ってみることにしましょう。
運営をしていたのが、スマートデイズ(旧スマートライフ)。2012年8月に設立された会社ですが、2013年7月期には売上高4億、2017年3月期には300億と急成長しています。その成長の原動力が「かぼちゃの馬車」の売買と管理運営でした。
同社は、空室リスクを恐れるオーナーのために、30年間のサブリース(家賃保証)をうたって売上を伸ばしていきました。サブリースとは、不動産会社がオーナーに対して毎月の家賃を保証する制度です。不動産会社が一括で部屋を借り上げ、それを入居者に又貸しをすることで、オーナーへの家賃を保証する仕組みになっています。
サブリースをする不動産会社は周辺相場などから保証する賃料を割り出します。一般的には相場賃料の90%が保証される家賃設定となるようですが、退去率の高いシェアハウスではさらに保証される家賃は少なくなりますのが通例です。とはいえ、オーナーにとっては何もしなくても一定の家賃収入を得られることから空室リスクを減らすことができると人気があったのも事実です。ところが、多くのオーナーが知らないことですが、サブリースをする不動産会社には家賃の減額請求権があります。今回の問題では、家賃30年間保証するとスマートデイズ社はうたっていましたが、この権利を行使すれば2年ごとのサブリース契約更新の際に家賃保証の額を減らすことができるのです。
実際にスマートデイズは2017年には家賃保証額の大幅な値引きをしましたが、なんとか家賃の支払いはしていましたが、2018年に入ってからは保証している家賃を支払うことはなくなりました。
その理由はこのビジネス自体が、オーナーへの土地の売却益や建築会社からの紹介料(キックバック)で成り立っていたビジネスだったからです。オーナーである会社員が1億円近くのシェアハウスを建てるためには、銀行から融資を受けなければ難しいものですが、それを一手に引き受けていたのがスルガ銀行でした。ところが、スルガ銀行がシェアハウスへの融資を規制したことからシェアハウスを建て続けることができなくなってビジネスが破たん。一気に社会問題化したということです。
体制自体に問題があると断じた第三者委員会報告書
スルガ銀行からスマートデイズ社には、およそ1000億円という巨額の貸し付けが行われていました。スルガ銀行は収益不動産の融資に関しては業界では有名な金融機関です。他の金融機関と比べて貸出金利は高いものの、審査も早く、他の金融機関で融資を断られた人や物件にも融資を実行してくれるということがありました。そこに不動産投資ブームが訪れ、物件を購入したいが融資がうけられない人と物件を売りたい業者がスルガ銀行に殺到しました。
2017年の金融庁の資料によれば、貸出金利利回りが都市銀行や地方銀行などに比べて3倍以上あったと言われています。このような異常ともいえる高収益の融資体制を維持するために、スルガ銀行の内部でも大きな問題が起きていました。
問題は大きく分けて3つあります。
第一に直接的な偽装行為です。自己資金の偽装や収入の偽装、レントロールの偽装、団体信用生命保険への診断書への偽装も行われていました。また、一部の偽装行為については支店長レベル、執行役員レベルでも黙認をしていた事実が明らかになりました。
第二は、偽装以外の不正行為です。シェアハウスローンでは、金銭消費貸借契約上の根拠がないのにも関わらず、スマートディズ社に命じて繰上返済を防止する協力を求めていたなどがあります。
第三は、不正行為等の温床を醸成する行為です。銀行の審査条件を事前に不動産業者に伝えたり、ローンの内容や説明などは全て不動産業者が行っていたという事実が明らかになりました。
こうした不正が行われる背景には、審査体制が機能していなかった、営業へのプレッシャーがあった、ガバナンスが効いていなかったなど、さまざまな問題があったと分析されています。スルガ銀行の内部でも、当初からスマートディズのビジネスモデルや財務体制に対して疑念を抱く人が複数いたそうですが、そうした声を吸い上げて問題を排除できなかった体制自体に問題があると第三者委員会は結論づけています。
再発防止に対する国の対応
サブリース問題から端を発した「かぼちゃの馬車事件」。別の見方をすればサブリースが正しく機能してさえいれば、このように社会問題化することもありませんでした。今後、このような問題が起きないために国はどのような体制で臨むのでしょうか?
国土交通省ではサブリースにおける家賃保証を巡るトラブルの防止などのため、2016年9月に賃貸住宅管理業者登録制度を改正。一定の資格者の設置の義務化や貸主への重要事項説明の徹底などを図り、関係団体への通知など指導強化を進めています。ただし、同制度は任意制度で問題の再発防止にどれだけ効果があるのかわかりません。
今後はサブリースに係る契約書の見直しに取り組み、家賃の変動や改定に係る事項を明確化するなどの方法に取り組むとしています。
騙されないためには、まず自分の中で「基準」を持つ
不動産投資にはいろいろなリスクがあります。最も大きいと言われているのが空室リスクですが、そのリスクを低減させるためのサブリースにもリスクは存在しています。
例えば、30年間の家賃保証をするとサブリース会社が言っていても、30年先にその会社が存在していると誰が保証をするのでしょうか? 「かぼちゃの馬車事件」のようにサブリース会社の財務体制が危うくなれば家賃保証を減額されることもありますし、サブリースの契約更新そのものができなくなることもあります。安易にサブリースを選択するのではなく、空室リスクを減らすためのベーシックな知識と、再現性の高いリスク低減のための解決方法を学ぶ必要があります。「かぼちゃの馬車事件」から何を得て、どう生かすのかが、今後の投資に重要な指針を生み出すのです。
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