不動産売却の分離課税とは?仕組みやメリット・デメリットを解説
我々の生活にはいろいろな場面で税金がかかります。不動産投資で発生した利益も所得に該当し、課税の対象です。実は日本における所得は、いくつかの種類に分けられ、課税の方式が異なります。
とくに不動産売却においては分離課税と呼ばれる課税方法となり、一般的な課税方式とは少し異なった性質をもちます。今回はこの分離課税とはどんなものなのか、分離課税を利用するメリット・デメリットについて解説します。またそのほかの税制特例についても解説するので合わせてチェックしてみてください。
目次
Toggle不動産売却の分離課税とは
不動産の売却で得られる収益には「譲渡所得税」と呼ばれる税金が課せられます。そのほかにも譲渡所得に該当するものはありますが、不動産の売却で得られる譲渡所得に関しては分離課税が適用でき、税負担の軽減が可能です。ただし、分離課税を適用するには注意点が存在します。
そこで、ここからは不動産売却の分離課税について概要や計算方法について解説します。
分離課税と総合課税の違いとは
分離課税と総合課税の違いは、所得が合算されるかどうかの違いです。総合課税は対象となる所得をすべて合算し、年間の収入合計額に応じて税率が決まる課税方式です。一方で、分離課税は総合課税とは別個で税率を設定し、計算する課税方式です。
そのため分離課税は、所得額が同じ場合であっても、すべて総合課税の時より税負担が軽くなります。
不動産売却と分離課税の関係
譲渡所得税は資産の譲渡で生まれる所得に課税され、不動産の売却以外には以下のものが代表的です。
- 株式
- 金地金
- 宝石
- 骨董品
譲渡所得は不動産、株式の売却は分離課税として計算され、それ以外は基本的に総合課税で計算されます。
さらに分離課税の中にも種類があり、源泉分離課税と申告分離課税に分かれます。
それぞれの違いは確定申告が必要かどうかです。不動産売却の分離課税は申告分離課税に該当するため、確定申告を行う必要があります。
ちなみに不動産投資で得られる家賃収入は不動産所得になり、譲渡所得とは別物です。不動産所得は総合課税での計算になるため注意しましょう。
分離課税の計算方法
不動産売却における分離課税の税率は、物件の所有期間によって変わります。具体的には以下の2種類に分けられます。
- 短期譲渡所得:所得税30%+復興特別所得税0.63%(※)+住民税9%=合計39.64%
- 長期譲渡所得:所得税15%+復興特別所得税0.315%(※)+住民税5%=合計20.315%
※復興特別所得税は令和19年(西暦2037年)までの期間限定で所得税に対して2.1%課される税金です。
上記税率を譲渡所得に掛け合わせて税金を計算します。なお、譲渡所得そのものの計算は、不動産の売却価格から取得費(物件を購入した価格)と必要経費を差し引いて求められます。
必要経費とは不動産を売却する際に要した費用のことで、代表的なものは以下の通りです。
- 売却の際にかかった仲介手数料
- 登記費用
- 測量費
分離課税のメリット・デメリット
分離課税には税負担を軽くできるメリットが存在しますが、一方でデメリットも存在します。ここであらためてメリットとデメリットについて焦点を当てて、分離課税について解説します。まずは分離課税のメリットについてです。
前述の通り、分離課税のメリットのひとつは税金の負担を軽くできる可能性が高い点です。総合課税とは別で税率を設定されているだけでなく、物件の所有期間によって税率の引き下げがあります。さらに特別控除を併用すれば、所得税がかからないケースも考えられます。
一方、デメリットは確定申告の手間が発生する点です。
不動産売却における譲渡所得は申告分離課税に該当します。そのため、確定申告で申請しなければ、総合課税での計算になってしまいます。手間はかかりますが、確定申告を確実に行うようにしましょう。
不動産売却における税金控除・特例
先ほど解説したように不動産売却に適用されるさまざまな控除や特例があります。これらの控除や特例を利用することで、不動産売却による所得税の軽減が可能です。
ただし、特例には細かい条件を満たす必要があります。そこで、ここからは不動産売却にかかる主な控除や特例の条件を解説します。
マイホーム売却時の3,000万円特別控除
マイホーム売却時の3,000万円特別控除とは、自宅を売却した場合に、不動産売却による所得から最高で3,000万円までを控除できる制度です。売却した不動産が自宅であることや、売った年、その前年および前々年に同じ特例やマイホームの買換え、交換の特例を利用していないことなどの条件を満たす必要があります。
マ イホームの買換え特例
マイホームの買換え特例とは、自宅を売却して新たな自宅を購入した場合に、不動産売却で発生した所得税を新たな自宅の売却時まで繰延べできる制度です。この特例を受けるためには、先の3,000万円特別控除と同様に売った年、その前年および前々年に3000万円特別控除の特例等を受けていないことなどが条件になります。
ただし、買換え特例はあくまで税金の納付を繰延べできるだけなので、将来的には譲渡所得税の納付が必要になる可能性がある点は覚えておきましょう。
所有期間が10年を超える場合の軽減税率
所有期間が10年を超える場合の軽減税率とは、マイホームを取得してから売却するまでの期間が10年以上である場合に、不動産売却による所得に対して適用される軽減税率のことです。先に解説した通り、不動産売却による譲渡所得は所有期間によって税率が変わります。5年以上の長期所有の場合、所得税率は20.315%です。
この特例は上記に加えてさらに以下の内容で税率が軽減されます。
- 譲渡所得のうち6,000万円以下の部分:14.21%
- 譲渡所得のうち6,000万円以上の部分:20.315%
つまり譲渡所得が6,000万円以下の場合、税率は6.105%も下がるため、税負担の軽減が可能です。
相続し た不動産の場合の取得費加算特例
相続した不動産の場合の取得費加算特例とは、相続した不動産を売却した場合に、不動産売却による所得から支払った相続税額の2分の1を控除できる制度です。
たとえば財産相続の際に1億円の相続税を支払い、相続財産を2億で売却するとします。その際の譲渡所得は売却金額から差し引く取得費に相続税1億の2分の1である5000万円を加算できます。
この特例を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること。
- 財産を取得した人に相続税が課税されていること。
- 財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。
相続した居住用財産(空き家)を売った場合の特例
相続した居住用財産(空き家)を売った場合の特例とは、相続した居住用財産(空き家)を売却した場合に、不動産売却による所得から売却価格の半額を控除できる制度です。この特例の対象となる空き家は以下の条件を満たすものです。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
上記条件を満たす建物について一定の耐震基準を満たすよう改築、または取り壊して譲渡すると、譲渡所得の金額から最高で3000万円まで控除可能です。
事業用不動産の買換え特例
事業用不動産の買換え特例とは、事業用不動産を売却して新たな事業用不動産を購入した場合に、不動産売却による譲渡所得を新たな事業用不動産の売却時まで繰延べられる制度です。この特例を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 売却した不動産が事業用不動産であること
- 売却する不動産の所有期間が10年を超えていること
- 不動産を売却した後、1年以内に新たな事業用不動産を購入すること
- 新たな事業用不動産の取得費が売却した事業用不動産の売却価格以下であること
この特例もマイホームの買換え特例同様、税金の控除ではなく繰延べです。将来的に所得税の支払いが発生することが考えられますので、注意しましょう。
まとめ
分離課税とは他の所得と分離して課税される税金です。不動産売却で得た譲渡所得は分離課税にあたり、確定申告により分離課税を選択できます。分離課税を選択すると損益通算を利用でき、税負担の軽減が可能です。
また税金の特例は分離課税以外にも多く存在するため、売却前に自身がどの特例を利用できるかをチェックした上で売却に挑んだ方が有利に立ち回れます。今回紹介した内容を参考に売却前の準備を進めてみましょう。
お役立ち資料
資産運用に関する資料を無料でダウンロードいただけます。