不動産の修繕費の目安は?すぐに経費計上できない?修繕費と資本的支出の違いを解説
不動産投資において、建物の定期的な補修はつきものです。修繕費の正確な予測は難しいものですが、事前におおよその費用感をつかんでおかないと、いざというときに経営を圧迫しかねません。
また、修繕の内容次第では、すぐには経費計上できないケースがある点にも注意が必要です。修繕について正しく理解しておけば、資金繰りの改善につながるでしょう。
今回の記事では、不動産の修繕費の目安や、すぐに経費計上が可能な修繕の条件について解説します。ぜひ円滑な不動産運用にお役立てください。
目次
Toggle不動産の修繕費とは
不動産の修繕費とは、経年とともに劣化する土地建物の補修費用全般を指します。具体的には、以下のような作業に対して発生します。
- 原状回復:賃借人の退去にともない、物件を入居時の状態に戻す作業
- 補修:故障や不具合が発生した箇所を修繕する作業
- 予防修繕:不具合が発生する前に、老朽化した設備の入れ替えやリフォームを行う作業
- 大規模修繕:外壁や屋根など、物件全体を大規模に補修する作業
老朽化が進んだ不動産は資産価値が落ち、空室リスクが大きくなることからも、適切なタイミングでメンテナンスを実施するのが肝心です。
不動産の修繕費の目安
不動産の修繕費用は、建物や修繕内容、さまざまな不確定要素によってまちまちですが、建物の規模や設備の耐用年数をもとに概算することは可能です。
国土交通省のガイドブックでは、建物の規模に合わせ、築年数ごとの大まかな修繕内容や修繕費用を紹介しています。
たとえば、木造新築の1K住居10戸を擁する賃貸物件の場合、おおよその修繕イメージは次の通りです。
- 5~10年目:約7万円/戸
- 11~15年目:約52万円/戸
- 16~20年目:約18万円/戸
- 21~25年目:約80万円/戸
- 26~30年目:約18万円/戸
- 30年間の合計:約174万円/戸(1棟まるまるで約1,740万円)
※それぞれ概算値のため、30年間の合計額と、年数ごとの額を単純に足し合わせた額とにズレが生じています。
補修費用は、例に挙げた30年目以降も継続的にかかるため、計画的な資金確保が大切です。
不動産の修繕費用は確定申告で経費計上できない可能性がある
ここまで「修繕費」とひとくくりにして説明してきましたが、実は不動産の補修にかかった費用の中には、確定申告の際、即時に経費計上できるものとできないものがあります。これは、費用の規模や特定の条件により、補修費用が「修繕費」として扱われるケースと、「資本的支出」として扱われるケースがあるためです。
修繕費と資本的支出の扱いの違いは、次の通りです。
修繕費はすぐに経費計上可能
補修にかかった費用のうち、修繕費と認定された費用は経費扱いとなります。そのため、確定申告において即座に経費計上できるのが大きな特徴です。
資本的支出は減価償却が必要
補修にかかった費用のうち、資本的支出に該当する性質のものは、資産として扱われます。そのため、1度の確定申告で即座には経費計上できず、耐用年数に従って減価償却していく必要があります。
不動産の修繕費と資本的支出の判断基準
税制上の扱いが大きく異なる修繕費と資本的支出ですが、それぞれの判断基準は、純然たるメンテナンス目的か、建物の価値を上げる性質のものか、という点にあります。
基本的に修繕費は、建物の原状回復や維持管理のための費用に適用されます。一方の資本的支出は、建物の使用可能期間の延長や新たな機能の付加など、建物の価値が上がるときに適用されるのが一般的です。
それぞれを判断するチェックポイントは、次の通りです。
支出額が20万円以上か未満か
支出額が20万円未満の補修費用は、補修内容に関わらず、一律で修繕費として取り扱われます。
これは、法律でいう「少額不追求」の考えによるものです。たとえ建物の価値を高めることが明確な補修であっても、20万円未満の少額の支出であれば、修繕費としてすぐに経費計上が可能です。
およそ3年ごとの定期的な補修か
およそ3年ごと、またはそれ以下のタイミングで定期的に行う補修費用は、修繕費に該当します。
数年ごとに行う補修は、建物の維持に必要な定期メンテナンスであると判断できるためです。補修の内容に関わらず、20万円以上であっても修繕費として計上が可能です。
建物の価値や耐久性を明確に増すものか
上記2項目の要件を満たさず、かつ建物の価値や耐久性を明らかに増す性質の補修費用は、資本的支出として取り扱われます。
ただし、補修の内容によっては、建物の価値を高めるものか否か、判断に迷うケースもあるものです。そんな場合には、次の判断基準に沿って判定します。
価値を高めるかあいまい、かつ60万円未満もしくは前年末の取得価額の約10%以内か
建物の価値を高める補修かあいまいなケースでは、かかった費用が60万円未満、もしくは前年末の取得価額の約10%以内におさまる出費であれば、修繕費として取り扱いが可能です。たとえば、5,000万円の建物に対して500万円以内の補修を行った場合がこれに該当します。
あいまいなケースのうち、この金額を超える場合には、特例措置により以下のうち金額の少ない方を修繕費として、残りの金額を資本的支出として分割処理できます。
- 支出した金額の30%相当額
- その固定資産の前事業年度末における取得価額の10%相当額
なお、いったんこの分割処理を選択した場合には、毎期継続して適用する必要があります。
注意点としては、その補修が「価値を高めるか否かあいまい」という前提条件があることです。明らかに建物の価値を高める補修の場合には、初めに挙げた「20万円未満」「3年以内に繰り返される定期補修」に該当しない限りは、たとえ60万円未満の補修であっても資本的支出として処理する必要があります。
最終的には修繕の実質内容で判断
最終的には、修繕の実態に沿ってそれぞれ判断することになります。
たとえば、5,000万円の建物に対して600万円の補修を行った場合は、先ほど説明した要件は満たされません。そこで、修繕の内容に目を向けます。事故で破損した外壁をやむなく補修したようなケースにおいては、元の建物よりグレードアップした修理を行っていない限り、修繕費として認められる可能性があるようです。
この他、被災を受けた建物の回復費用は修繕費として計上できるなど、災害時の特例措置もあるため、複雑なケースでは自己判断せず、税理士に相談するのがおすすめです。
ただし、税理士ごとに判断が異なる場合も少なくないので、信頼のおける事務所を選ぶのが大切です。
不動産の修繕費と資本的支出の具体例
不動産における修繕費と資本的支出の概要や具体例は、次の通りです。
修繕費 | 資本的支出 | |
概要 | 従来と同等の質や機能をもつ補修 | 新たな設備の導入・従来の設備よりグレードアップした補修 |
具体例 | l 退去にともなう壁紙の張り替え(同グレードの壁紙を使用)
l 外壁のひび割れ補修(同グレードの塗装内容) l 3年ごとの非常階段のサビ止め塗装 l 電球の交換 |
l 退去にともなう壁紙の張り替え(特注の高級壁紙に変更)
l 外壁のひび割れ補修(先進的な機能をもつ塗装内容に変更) l 建物に非常階段を新設 l 追い焚き機能のない給湯器を、追い焚き機能付きのものに変更(20万円未満であれば修繕費扱い) l 開き扉タイプの旧式キッチン台を、オールスライド・フロアコンテナのシステムキッチンにアップグレード |
不動産の修繕費を抑えるポイント
不動産の修繕費や資本的支出をなるべく抑えるためには、以下の点に注意する必要があります。
- 大きな不具合に発展する前に定期的にメンテナンスする
- 投資する物件の条件に配慮する
- 入居者審査を行う
建物や設備は、まめに補修しないと老朽化が進みやすくなります。放置していた分だけ補修費用がかさみやすいため、ダメージが少ない時点から少しずつ手を入れていくのが大切です。
また、そもそも投資を始める段階から、投資先の物件へ配慮するのもポイントです。一般的に、築年数の浅い物件であれば、築古物件よりメンテナンス費用がかかりません。長期入居が期待できる需要の高い物件は、空室リスクが低く、退去のたびにかかる原状回復費用や、入居者を呼び寄せるための設備改修費用を抑えられる傾向にあります。
さらに、入居者のモラルが低い場合には、部屋の汚損につながりやすくなります。その分、補修費用がかさむ可能性があるため、なるべく慎重に入居者審査を行うのが肝要です。
まとめ
今回の記事では、不動産の修繕費の目安や、経費計上が可能な修繕の条件などについて解説しました。
不動産の修繕費や資本的支出は、30年など長い目で見たときにはまとまった額が必要になるため、計画的な運用が肝要です。また、設備投資的な意味合いが強い修繕は減価償却の対象となり、すぐには経費に計上できない点も、あわせて留意しておきましょう。
不動産の投資や経営には、不安や疑問がつきものです。不動産にかかる修繕費を含め、わからないことがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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